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肉球ピンク母猫に託されたイイチャン

 *(以下は『週刊朝日』のペットコーナーに投稿したもので、編集された後掲載されました)
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イイチャン
 5年前(1998年)のある朝、その猫に「ニャン」と呼び止められた。見ると、私の車の下に大きなお腹をした猫がいた。それ以来毎日エサを与えたが、用心深い猫は懐こうとはしなかった。

 やがて、駐車場の屋根の隙間でお産した猫は、3匹の幼い子猫とともに時折屋根の上にも姿を見せるようになり、家の窓から親子の様子を眺めるのは私の楽しみになった。ところが、しばらくするとどこかへ引っ越してしまい、また母猫だけが以前同様にエサを食べに来る日が続いた。

 2ヵ月程が過ぎ、母猫に連れられて現れた子猫たちは元気そうだったが、なんと、1匹は片目を失っていた。そして、その片目の子だけは駐車場に住み着き、いつも母猫と一緒にエサを食べるようになった。
すでに2匹の猫を飼っていた私は、子猫とは親しくならぬように心がけていた。しかし、あるとき、目の前で無心にエサを食べる姿をみつめるうち、つい、その小さな額を指先で撫でてしまった。子猫は、とても驚いて私を見上げた。が、すぐに、今度は自分の頭を力強く私の手にこすりつけた。
「あぁ、もう放っておけない‥」、ついに引き取る決心をして、子猫を獣医に連れて行った。子猫の目は炎症が治まったのち手術することに決まった。

 獣医から戻ると、駐車場にはちょうど母猫が来ていて、子猫は大声で母に助けを求めた。ところが、母猫は全く心配する様子もなく、尻尾をピンと立て「ニャア」と一声鳴いた。まるで、「大丈夫。行きなさい」と言ったかのようで、私は、母猫に子猫を託されたような気がした。あんなに鳴いた子猫もその日の夜にはすっかり落ち着き、その後、外から母猫の声が聞こえてきても、少しも気にならないようだった。

 傷も治り美しく成長したイイチャンは、雄猫顔負けのおてんば娘である。この活発さがけがの原因だったのかもしれない。
 親子の別れから3カ月後、母猫は事故で死んでしまったが、初めて出会ったあのときの「ニャン」は「親子共々よろしく」だったかな‥と思っている。

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【追記】
 いま思い出してみても、イイチャンと母猫の別れはとても印象的です。 ジグとイイ
あのとき私は「よかった。別れの挨拶がさせられる」と思うと同時に、「親子で鳴かれたら困るナ」とも思いました。
母猫に近づき、かごに入ったままのイイチャンと対面させたとき、案の定イイチャンは激しく鳴きました。が、母猫の反応は全く意外なものでした。
さらに、うちに来てからのイイチャンも同様で、「3日ほどは隠れて出て来ないだろう」という私の予想を裏切り、当日から堂々と我が家の一員としてふるまったのです。そして、外からはエサをねだる母猫の大きな声が度々聞こえてきましたが、その声に“これっぽっち”も関心を示さないイイちゃんの様子は、本当に不思議なものでした。

 「ニャア」の一鳴きで、子猫ばかりか私にも引導を渡したイイチャンのママは、本当に「尊敬すべき偉い母猫」だと思うのです。


2008年7月

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